宇宙大帝ゴッドシグマ

長浜なきロマンロボシリーズ5作目 1980.3〜1981.2 全50話 東京12チャンネル系 


「超電磁ロボコン・バトラーV」
「超電磁マシーンボルテスX」
「闘将ダイモス」
「未来ロボダルタニアス」

 以上、東映本社製作、サンライズ下請のタッグで送り出したロマンロボシリーズと称される四部作を長浜忠夫氏は手掛けられた。これらロマンロボシリーズは従来のスーパーロボットのヒーロー性を維持しつつ美形悪役を始めとする敵側が背負った悲劇のドラマ、敵側の良心と手を組んで真の巨悪を打倒する大河的なストーリー展開を盛り込んで当時のロボットアニメに新風を吹き込んだ作品群だ。またチーム同士の友情から、角の有無による人種差別問題、敵味方を越えた大恋愛、人類に生み出されたクローンの悲劇といった扱うテーマも徐々にドラマ性を増していった。

・ロマンロボシリーズの要素を継いだ幻の5作目として

 ダルタニアスの後に放送された作品がこの「宇宙大帝ゴッドシグマ」(以下ゴッドシグマ)だ。佐々木勝利、佐々門信芳、金山明博各氏を始めとする演出・作画面でそれまでの4作を支えたサンライズ系のスタッフが「無敵ロボトライダーG7」へスライドした一方、飯島敬、田口勝彦氏ら文芸・プロデュース面でロマンロボシリーズを支えたスタッフが中心となって製作された。ゴッドシグマとトライダーG7はダルタニアスの延長線上として二つに分かれた作品として見なす事も出来るだろう。

 肝心の中身も恋人の体に自らの魂を宿す麗人(?)テラル総司令を中心に敵側のエルダー軍は未来の地球から侵略を受けている為に、過去へワープして歴史を変えなければならないドラマ性を背負わせた。そんな敵味方がお互いを分かりあうドラマの他に、真の巨悪ポジションとして描かれたガガーンは、中間管理職でありながら何れエルダー星の権力掌握を狙う底知れぬ不気味な野心家として描かれた。終盤ではゴッドシグマの生みの親だった風見博士がトリニティエネルギーの探究心を前に我を見失ってエルダー軍へ寝返るどんでん返しも用意される等、ロマンロボシリーズのドラマ要素へより一ひねり加えた挑戦が見受けられる。ちなみに、主役ロボット・ゴッドシグマも前4作にならってヒーロー性の強いロボットとして扱われたほか、中盤でシグマブレストが追加されるパワーアップイベントが存在した。

 だがゴッドシグマの泣き所としては、作画面の低迷とロボットアクションの乏しさ……もあるが、作品が扱うテーマが薄かった事だ。確かにゴッドシグマは敵側が背負った事情、敵味方が手を取り合って真の巨悪を倒すといったドラマの運び方は存在していたが、そこで扱うテーマが存在しない戦いだった。人種差別の撤廃、人種を越えた恋愛、クローンの悲劇はそこに存在せず未来の地球人に苦しめられているはずのテラルは、真の巨悪がガガーンにあるという事で闘志也達と共闘する事を選んだ。よって、未来の地球人から攻撃を受けるエルダー軍の葛藤がフェードアウトしてしまい、ロマンロボシリーズらしいドラマの運び方を選ぶ際に、扱うテーマを置き去りにしてしまった事は少し皮肉だ。また風見博士の裏切りは後年語り草になる出来事だが、原作ではそれまでさほど伏線もなく突如、闘志也達と衝突する悪役として描かれた末に裏切るという唐突な印象は否めない。よってロマンロボシリーズのやや中途半端なフォロワーという印象もある作品だ。

・親離れを描いた終焉の5作目として

 そんなゴッドシグマだが、全体を通して描かれたテーマが一つ存在していたのでは?とふと私は後で考えた。そのドラマとは“若者達の親離れ”ではないだろうか。

 まず、闘志也は故郷のイオで離れ離れになった父・太一郎と再会する為に戦っており、仲間のジュリィもまた母と妹を、キラケンこと謙作も両親や弟妹と離れ離れになってしまった。ゴッドシグマを操る3人はエルダー軍の襲来を前に離散した家族を取り戻す事が戦う動機だ。
 しかし、何故かゴッドシグマに登場した親は人間性に問題のある人物が多かった。中盤までレギュラーとして登場するマルチーノはスポンサーとして保身と利益を優先して闘志也達に無理難題を言う役柄。風見博士も中盤まで模範的な博士キャラクターだったが、第10話「父として博士として」では3年以上会っていない父を恋しく思う息子ヤスジに対して、科学者としての信念が揺らがないようにする為との理由で冷たく接してしまう親としては不器用な面が見受けられる。そして不器用な父に認めてもらいたい為、ヤスジはコスモザウルスを倒そうとして放ったバズーカが暴発してその命を落としてしまう悲劇につながった。またゲストキャラではあるが、第20話「ジュリィの秘密貯金」ではジュリィの父が登場するも、彼は研究の為に借金を背負ってしまった点まではまだしも、母と妹の為にジュリィが貯金した500万円を貸してくれと言いだす人物。お世辞にもまともな父親とは言えない。

 ……果たして親とは所詮その程度の人物でしかない事か、それとも子供達が親へ依存しすぎていただけなのか――第36話「我がジュリィの妹」ではジュリィの妹ジェーンが地球への脱出を狙うも戦死してしまう事態が描かれジュリィは悲しみに暮れる。その直後に風見博士が闘志也達とトリニティエネルギーを巡って対立を起こした事で、以降風見博士が有能な博士としての姿は見られなくなる。最終決戦に向けてトリニティシティが宇宙へ飛び立つ中でも、風見博士は指揮権を放棄してトリニティエネルギーの探究で駄々をこねて対立するお荷物キャラへ凋落した。この風見博士の凋落は闘志也達にとって親のような指導者、理恵や正太など孤児の身だった人物に至ってはは実の父親を失ったも同然だった。以降闘志也達若者達だけで最終決戦へ向け戦いの旅を強いられる事となり、その途中で風見博士がゴッドシグマに勝算がないと判断してエルダー側へ寝返った末に戦死する事態にも直面した。
 旅の果てに、第49話「イオに立つ墓標」で闘志也達は遂にイオへと到着を果たす。だがいおで知らされた事はジュリィの母も戦死しており、キラケンの家族も見つからなかった。(第1話の回想時点で戦災に巻き込まれた描写があった時点で生存は絶望的だったかもしれないが……)それだけでなく、唯一生き延びていた太一郎も前回での戦闘で受けた負傷が原因で息を引き取ってしまう。

「ガガーン!この銃にイオの仲間、地球の仲間、そして虫けらのように殺された仲間の怒りが込められている!この銃に最期まで平和を叫び続けた人々の魂が込められているんだ!貴様のような奴はこの世に生かしてはおけぬ!!平和の為に俺はお前を殺す!!」


――ガガーンにテラルが殺された時、闘志也は叫ぶ。

 最終回ではゴッドシグマは最後の敵ガルゴスと相討ちになり、ジュリィ、キラケンだけでなく理恵や正太など親から離れた若者達が銃撃戦へ身を投じていく。この戦いの中で闘志也はガガーンが乱射する銃の弾も命中せず、彼の眉間と心臓を射ぬいた。この時の闘志也は何かの気迫に守られていたようとも言われるが、それは戦いの中で自分達が親や家族を失った事への怒りの念も込められていたのだろう。

 ボルテスXやダルタニアスなどでも主人公の父親と再会するまでがドラマの1つとして扱われ、結末は本当の平和の為に尽くす父親と再び別れて、主人公達が平穏な地球へと帰還していくものであった。だがゴッドシグマの場合は、主人公達が家族と円満の再会を果たせなかった。その後闘志也はテラルと太一郎の墓標を前に、未来の地球に脅かされるエルダー星を救うという本当の目的を果たす為に一人でゴッドシグマと共に未来の世界へ旅立っていく。現代に残った仲間との再会は約束したが、誰一人仲間のいない戦場へ向かうのだ。この結末で幕を閉じたゴッドシグマの物語とは、戦いの中で若者達が親離れを経験して、一人前となった身で本当の目的へと向き合う事。親との再会を果たして本当の目的を成し遂げた前4作とは意外と対照的な作風が根底には流れていたのではないだろうか。

 最後に周辺事項を少し触れる。ゴッドシグマが放送されていた時期は「機動戦士ガンダム」で描かれた戦争路線、人間達の群衆劇などのミリタリー、ドラマ性に重点を置いた「闘士ゴーディアン」「伝説巨神イデオン」「宇宙戦士バルディオス」、逆に快活な要素を押し出した娯楽性の強い「無敵ロボトライダーG7」「太陽の使者鉄人28号」が放送されていた。この二極化する作風の中でゴッドシグマはドラマ性を備えながら従来のヒーロー性を色濃く残したややオーソドックスなスーパーロボットアニメであり、「百獣王ゴライオン」は美形悪役を始めとする敵側を純粋な悪役へと扱う娯楽性の強い作品(最も、第三次世界大戦で地球が荒廃した矢先、本当に消滅するショッキングな要素もあるが……)へとシフトした。

 ――ゴッドシグマはコン・バトラーVから継承されたロマンロボシリーズの作風、また長く継がれたスーパーロボットアニメの要素を締めた立ち位置の作品なのかもしれない。ゴッドシグマと共に一人未来へ旅立つ闘志也のラストカットは一つの歴史へ区切りを付けたようにも見える……。




メインスタッフ(敬称略)
・原作:八手三郎 チーフディレクター:神田武幸/田口勝彦 脚本:田口章一(山崎久)、辻真先、中原朗、曽田博久、桜井正明、陶山智、島田真之 キャラクター原案:新谷かおる キャラクターデザイン:宇田川一彦 メカニックデザイン:サブマリン 音楽:筒井広志 プロデューサー:折田至、飯島敬 アニメーション制作:アカデミー製作 製作:東京12チャンネル、東映、東映エージェンシー

メインキャスト(敬称略)
・壇闘志也:富山敬 ジュリィ野口:安原義人 吉良謙作:玄田哲章 春日理恵:滝沢久美子 風見博士:富田耕生 春日正太、テラル総司令:小原乃梨子 ミナコ・マルチーノ、ジーラ:吉田理保子 サチ:桂玲子 マルチーノ:緒方賢一 リーツ:飯塚昭三 ガガーン:寺島幹夫 ダルトン、ナレーション:屋良有作 メサ:キートン山田

個人的な作品への評価……大体66点ぐらい。欠点がない訳ではないが味はある

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