グロイザーX


戦争ロボットアニメへの先駆者 1976.7〜1977.3 全36話 東京12チャンネル系 


「グロイザーX」は「マジンガーZ」、「ゲッターロボ」等を生んだダイナミック規格が70年代に送り出した最後のロボットアニメだ。だが、それまでの作品のように東映アニメーション製作ではなく、グロイザーXは諸事情によってナックが製作した。よって、東映アニメーション以外では最初のダイナミック系のアニメ作品になる。余談だが、ナックは当時概ねコンセプト(飛行形態から変形する主役ロボット、異星人のヒロインなど)は同じロボットアニメ「ビッグタイタン」の企画を進めていた矢先にダイナミック側の企画が届いた。その結果グロイザーXは誕生したが、ビッグタイタン時のキャラクターデザインは「アストロガンガー」や「チャージマン研」を彷彿させるタツノコ系の濃い絵柄だった。

・過酷なるミリタリズムへの挑戦

 グロイザーXは田舎を舞台にした点、宇宙からの侵略者との戦い、味方側の主要人物に異星人が存在している点など、同期のダイナミック系作品「UFOロボグレンダイザー」を彷彿させる。さらに飛島博士のデザインは冒険王版グレンダイザーの宇門博士(アニメ版とは別人のデザイン)であり……このコミカライズ版を手掛けた桜多吾作氏がグロイザーXの原作を担当した。同氏にとって唯一原作を手掛けたアニメーション作品だ。

 桜多吾作氏の手掛けられた冒険王版のマジンガーシリーズといえば、最終的に甲児をサイボーグとして改造させてまで戦う宿命を背負わせたマジンガーZ、ミケーネ帝国の姦計に乗った人々に裏切られてゲリラ戦を展開するグレートマジンガー、人類が核戦争を引き起こした結果滅びていく展開で締めるグレンダイザーなどハードな作風やミリタリズムな要素が顕著だ。グロイザーXも冒険王版マジンガーシリーズと比較するとショッキングな色合いは薄いものの、これらの要素を踏まえた作品、ミリタリズムな要素を取り入れたロボットアニメとして黎明期の色合いもあるだろう。

 グロイザーXの主人公・海阪譲は比較的正統派な熱血漢だが、相方のヒロイン・リタはガイラー帝国から茜島へと亡命した経緯を持つ。それもガイラー帝国に滅ぼされた星の生き残りのような被害者側の人物ではなく、同じガイラー星人であり、彼女は平和を望みながらも地球からみれば加害者側の立ち位置に存在する人物だ。その為序盤では地球人からも敵同然と怒りをぶつけられてしまうエピソードもあり、終始ガイラー帝国側からは裏切り者と呼ばれボーイフレンドや幼馴染とも戦う事を強いられていく。

 リタ以外の点で目を向けると、ガイラー帝国の背景は北極に不時着した探査船の中で、タカ派が権力を掌握した事で成り立ったと言う戦時の日本を彷彿させる過激な組織だ。また日本を標的に選ぶ背景として日本が何れ世界を制覇するには立地的な条件で恵まれている点、空爆に弱い点などが挙げられたり、武力による侵略が基本ながら時折ライフライン、輸送船等を襲って経済的に日本を苦しめたりと、大局的な戦争や兵站、資源の概念といった要素が抑えられていた。特に第3話「恐怖の気象兵器」」では、北海道の農作物を枯らせる目的で放たれた気象兵器サタンが、異常気象を起こして農作物を枯らせただけでなく、光線を浴びた人々の後遺症が3クール目で襲いかかる惨劇が発生。ベトナム戦争の枯葉剤を彷彿させる凄惨な兵器として扱われた。

 人間ドラマの点でも、第9話「傷だらけの友情」では、音楽を愛する心優しい人物でありながら、「ボタンひとつで大勢の人々を殺せば英雄として母国で称えられる」という譲の前で自虐めいた発言を残したハーロック、第15話「悲劇の空爆ロボ・ビッキー」では何も知らずに東京都民を凍結させるICB爆弾を投下してしまった新兵ビッキーなど、戦時下の現実を前に変わらざるを得ず、翻弄されていくゲストキャラの悲劇が扱われた。特に太平洋戦争を生き延びた老人バクをこの場で語らない訳には行かない。普段の彼はムードメーカーだが、終盤では激化する戦いの中で自分だけ死に場所を見つけられない事が死んだ戦友に対して申し訳がないと憂いを見せていく。その末第33話「茜基地へ突入せよ!」では、ガイラー帝国に基地を占領されて、グロイザーXが奪われる危機を前に彼は複葉機赤とんぼでグロイザーXの降着装置へ特攻をかまして危機を救った。「ここが男の死に時じゃ!!」と操縦桿を握る腕が震えるバク老人にゼロ戦のイメージが重なる。戦争や特攻は賛美されるものではないかもしれないが、バク老人はその時代を亡き戦友たちと駆け抜けた人物だ。戦争の悲劇を描く反戦ものだけではなく、戦争をその人物にとって生きた証でもあり想い出でもある意味で描いた試みも、当時では珍しい挑戦だった。




・グロイザーX、兵器としての一面


 さて、肝心の主役ロボグロイザーXについてここから触れることにするが、タイトルにあげられたグロイザーXはあくまで爆撃機形態を指しており、ロボット形態の名前はグロイザーロボだ。その上グロイザーロボは全36話中12回(そのうち2回は湖の物体を回収する為に変形した)しか登場していない事は少し有名な話だろう。このグロイザーXが爆撃機形態をメインとする意図としては、当時ロボットアニメの中で脱ロボット化を目指す背景があったそうだが(おそらく差別化の目的だろう)……この試みもグロイザーXの魅力を引き出す要素として機能している。

 グロイザーXが敵空爆ロボと繰り広げる空中戦は同期の作品の中では殺風景だ。機銃やビーム、ミサイル等を撃ちあいながら激突する戦いの描写は戦闘機同士のドッグファイトを意識して作られたものだろう。特に必殺技として扱われるフライング・トーペドーは機体の底部から発動される大型空中魚雷。同期の作品がビームや突撃技をメインとしていた中で、爆弾一発で相手を葬り去る必殺技は余りにも異例だ。グロイザーXの戦いは当時のロボットアニメからヒーロー性を排して、兵器性を盛り込もうとする試みが見受けられる。

 先程出番の少ない事を触れたグロイザーロボだが、基本爆撃機形態で大抵の戦いは片付く点(一応まれに例外はある)も出番が少ない理由の一つだ。このロボット形態の出番が少ない点は敵側でも当てはまる設定であり、ロボット形態へ変形する場合、戦闘によって飛行能力を失った為にやむを得ずのパターンが多い。グロイザーロボへの変形も、相手に飛行能力を喪失させられた、または相手がロボット形態に変形した事に合わせて変形する事が多い。
 このシチュエーションは言うなれば機体が不時着した後、脱出したパイロットが地上で空中の敵へ抵抗する展開を想像してもらえたら分かりやすいかもしれない。あくまでロボット形態は空中で戦う能力を失った点では不利であり、脱出する為……いや、最期まで抵抗して散れ!という意味合いが込められた変形形態だろう。グロイザーXもロボット形態に変形して飛行能力を失った相手へ止めを刺す描写は、敗者を虐殺する勝者の余裕が現れている事は気のせいだろうか。

 ちなみに、グロイザーXは元々ガイラー帝国が開発した空爆ロボだったがリタに強奪された経緯が存在している。グロイザーXには一応高性能なタキオンエンジンが搭載されている為、頭一つ抜けた強さを持っている設定がある点はマジンガーZやゲッターなどでも見受けられる主役ロボのアドバンテージ描写だが、相手の敵メカもまた空爆ロボの規格で統一されていた。ガンダムにおけるモビルスーツ、ダグラムにおけるコンバットアーマーなどに先駆けて、敵味方のロボットを同じ規格の兵器として扱った最初の作品が実はグロイザーXだったのだ。さらに主人公が敵側から主役ロボットを強奪したり、敵味方共に飛行形態へ変形するロボットが多数登場したりする点は後の「機動戦士Zガンダム」というのは流石に……言い過ぎか。

 戦争の形で描かれる日本への侵略描写、戦時下に翻弄される兵士達のドラマ、兵器性を取り入れた空爆ロボのメカニック描写など後のリアルロボットものに通じる要素も散りばめられている作品だ。終盤の展開もヤン博士らガイラー星の平和主義者が健在であることが明かされ、彼等と手を組んでゲルドン帝王らタカ派を一掃するという後のロマンロボシリーズを彷彿させる大河的なストーリー展開が繰り広げられ、当時では珍しく後日談へも重点が置かれたドラマを繰り広げた。作画の拙さが惜しまれるが、重厚なドラマと共に戦争の要素を取り入れたロボットアニメの先駆者だろう……余談だが、後の可変リアルロボを彷彿させるグロイザーXだが、その変形はゲッターを彷彿させるモーフィング要素が取り込まれており、玩具でもやはり完全変形が可能な商品として発売されていない。そこで今、バルキリーやZガンダムのような変形機構を持つグロイザーXを見てみたいと思ってしまうのは私だけだろうか……(笑)



メインスタッフ(敬称略)
・原作:桜多吾作 監修:永井豪 チーフディレクター:秦泉寺博 シリーズ構成:安藤豊弘 脚本安藤豊弘、伊東恒久、吉田進、桜井正明 演出:秦泉寺博、神田隆、新田健二、高垣幸蔵、佐山一志、磯良一 キャラクターデザイン:鈴木孝夫 作画監督:田中英二、長谷川憲二 音楽:クニ河内 プロデューサー:西野清市、中野庄司、近藤伯雄 制作協力:大広 製作:ナック

メインキャスト(敬称略)
・海阪譲:古谷徹 リタ:野崎貴美子 飛島秀樹博士:勝田久 バク:龍田直樹 サブ:沢田和猫 一平:沢木郁也 ゲン:山下望 吉田局長、四村大吉、ルガー元帥:政宗一成 四村みどり:高木早苗 ゲルドン帝王:薮内英喜 ドゴス元帥:河西清 ヤン博士:池田勝 

個人的な作品への評価……大体73点ぐらい。作画が拙い事に耐えられたら一見の価値は十分ある

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