ヤマトタケル


Vガンダムとエヴァンゲリオンの間に 1994.4〜12 全37話(後にOVA全2話が制作される) TBS系 


・90年代前半のロボットアニメに関して

前置きとして、80年代末期から90年代半ばまでのロボットアニメについて述べる。この時代は「トランスフォーマー」、「魔神英雄伝ワタル」のヒットを受けて、ロボット群衆劇、SDメカ、ゲーム感覚等の要素を取り入れた作品が多い。その為かこの時期のロボットアニメは陽性な雰囲気が強い。
参考にとして平成初頭から「新世紀エヴァンゲリオン」が放送された1995年までのロボットアニメをざっと以下に纏めた。

1989

獣神ライガ―

1993

勇者特急マイトガイン

魔動王グランゾート

熱血最強ゴウザウラー

トランスフォーマーV

疾風!アイアンリーガー

1990

勇者エクスカイザー

機動戦士Vガンダム

キャッ党忍伝てやんでえ

1994

勇者警察ジェイデッカー

魔神英雄伝ワタル2

機動武闘伝Gガンダム

NG騎士ラムネ&40

覇王大系リューナイト

からくり剣豪伝ムサシロード

レッドバロン

RPG伝説ヘポイ

ヤマトタケル

1991

太陽の勇者ファイバード

魔法騎士レイアース

ゲッターロボ號

マクロス7

絶対無敵ライジンオー

1995

黄金勇者ゴルドラン

1992

伝説の勇者ダ・ガーン

新機動戦記ガンダムW

超電動ロボ鉄人28FX

新世紀エヴァンゲリオン

元気爆発ガンバルガー

 

 

 上の表から見て分かる通り、この時期はSDメカ、勇者シリーズ、エルドランシリーズなどが主流だ。それ以外の作品もRPGや格闘ゲームなどの要素を取り入れたロボットアニメの少なくない。その中で「機動戦士Vガンダム」(以下Vガンダム)と「新世紀エヴァンゲリオン」(以下エヴァンゲリオン)の2作品もゲーム要素を取り入れた点は同じながら、久しぶりに重いドラマを背負った作品だ。「Vガンダム」で投じられたドラマは、「エヴァンゲリオン」のヒットへと引き継がれ、やがてロボットアニメのあり方を変える事に至るが、この2作品の狭間、1994年に放送されたロボットアニメの中で唯一重いドラマを背負った作品が今回取り上げる「ヤマトタケル」だ。

・異種のブレンドによる一輪の花

 「ヤマトタケル」は、東宝製作の特撮映画、コロコロコミックに連載された漫画とのメディアミックスの一環で製作された。当時では少し珍しい経緯で生まれたと言っても良いだろう。

 スタッフ面に目を当てると、まず総監督兼構成に「ワタルシリーズ」の井内秀治氏、監督に「勇者エクスカイザー」の谷田部勝義氏(森田風太名義)等とロボットアニメに手慣れたサンライズ系の人材が参加されている。だがアニメーション制作の日本アニメーションは「世界名作劇場」を始めとするファミリー路線を主に手掛けるスタジオであり、ロボットアニメは77年に放映された「超合体魔術ロボギンガイザー」から約17年ぶりの挑戦という異例の試みだった。さらに、制作プロデューサーに松土隆二氏、美術監督の伊藤主計氏等と世界名作劇場の経験者もメインスタッフへと参入し、各話演出にはサンライズ系と日本アニメーション系のクリエイターが顔を並べると言う珍しい陣容となった。

 かくして「ヤマトタケル」は「少年の冒険活劇と成長物語」というサンライズ的な明朗な路線に、「牧歌的な自然と人の営み、冒険の中で迫る現実や試練」という日本アニメーション的な暖かさと重苦しさを併せ持つ作風が融合。後年に井内氏は「ロボットものと世界名作劇場のブレンドもの」とこの作品を評されている。なお、重苦しい作風に反して、岸田隆宏氏のキャラクターデザインはデフォルメによる可愛らしさが特徴的であり、この作品の性質を見事表したものだろう。後に同氏が可愛らしくも重苦しい「魔法少女まどか☆マギカ」のキャラクターデザインを手掛けられた点は少し面白い巡り合わせだ。

・砂漠に咲くか一輪の花


 「ヤマトタケル」は、原住民と地球移民との間で確執が存在する惑星イズモの村から物語が始まる。ツクヨミ率いる魔空戦士達の空襲の最中、少年タケルは地底で眠るスサノオを発見して乗り込んだ。しかし、タケルが戦って敵を退けた代償が、スサノオの火炎放射で誤って故郷の村を焼き払ってしまう。

 この惨事の後もタケルは人々の困惑を知らず、自分がスサノオに乗った事を自慢し続けた。第2、3話では再度の空襲に父が巻き込まれてタケルは我を失って戦った挙句、肩からのビーム砲が暴発して村に被害を与え、乱射した火炎放射が田畑を焼き払う凄惨な事態が描かれ、その上タケルがスサノオを操縦した事を村中に知られた為に、原住民達は彼を追放する事を決めてしまう。この事態となってもタケルは「戦わない者は勇気がない奴にすぎない」と納得がいかないまま村の大人を相手に乱闘を引き起こす始末。その夜に友人のロカから「再び敵がタケルを襲って戦闘になれば村が巻き込まれる」為、村人が自分の強さを恐れていると聞いてタケルは故郷に失望。ロカと共に村を出る事を選んで冒険が始まるものの、村を戦火に巻き込んだ罪を背負って半ば追放同然に冒険の幕が開ける展開は当時では異色った。

 序盤は自分が見ていない海を見るという目的を持ってタケル、ロカ、そして魔空戦士ミカヅチの妹との正体を隠す少女オト達が旅の中で訪れる村の出来事が描かれる。その中で生きるために盗賊稼業へ手を染める人たち、生きる為の戦いを強いられる事情、国を治める者が外の世界を見る資格など……海を見たいタケルの理想に対して、生きる人々の悲しい現実が浮き彫りにされたエピソードが続出した。

 だが、序盤の重苦しい展開か地味に映った為か、2クール半ばで物語ミズホの街を舞台にしたデスリングを主軸としたストーリーへ変更された。デスリングに関していわばガンダムファイトに置き換えてもらえば分かり易いものであり、この路線変更の背景にはゲーム要素を取り入れる傾向があった時代を察する事が出来るだろう。けれども、圧倒的な魔空戦神達が競技用のロボットと拳を交えるには一方的な実力差が存在していた事もあり、個人的にはこの路線変更は微妙だった。

 3クールは舞台を宇宙へと移して、タケルかミカヅチかで板挟みになるオトの葛藤、タケル一行とミカヅチの間で繰り広げられるアマノシラトリ争奪戦が描かれる。第30話「神の鳥アマノシラトリ」にて争奪戦にケリがつくも、タケルは最後の試練を乗り越える中で苦楽を共にした仲間が散っていく。試練を乗り越えた後、アマノシラトリから仲間達を蘇生させるか、自分を従えるかの選択を課された時、タケルは自分のために散った仲間の遺志を想いながらも彼らを助ける事を選んでしまう。この仲間を想うタケルの答えがアマノシラトリの心を動かした――という訳ではなく、なんと選ばれなかったアマノシラトリはそのままミカヅチの元に渡り、以後彼の力としてアマノシラトリが猛威を振るう結果となった。まるで、力を得るためには心を鬼にしなければならないとの事情を逆説的に書いたかのように……。

・一輪の花が残したものは


 ……実はアマノシラトリ。本来スサノオのパワーアップメカとして登場する予定であり、どうやらミカヅチの手に渡った後にタケルの元へ戻るはずだった。この展開が実現しなかった件で事情を察せられた方もいるかもしれないが、「ヤマトタケル」は同期のロボットアニメで唯一打ち切りの憂き目に遭ってしまった。重苦しい作風はともかく、本放送地域の少なさや放送時間の相違、玩具展開の不振、メディアミックス戦略の早期終了など悪条件が重なってしまった事も関係があるだろう。未消化に終わった設定は後にOVAで補完されたものの、その後残念ながら影の薄い作品に甘んじてしまった事は否めない。今となっては初期OP・EDがGLAYのデビュー曲という事実が一番有名な事柄ではないだろうか。
 

・ただ、「ヤマトタケル」の特筆すべき点として魔空戦神スサノオの描かれ方に触れる。スサノオはタケルのパートナーとして共に成長していくロボットという「ワタルシリーズ」の龍神丸を彷彿させるロボットとして描かれた。だがスサノオは岩石やマグマを食べて成長する異例の成長過程を持ち、食事シーンではタケルがスサノオの口の元へ岩石を運ぶ姿が映された。この描写は後に使徒を喰らう事で主役機を描いた「エヴァンゲリオン」に先駆けて行われた描写であり、後に自ら糸を吐いて繭を作ることで脱皮して第2形態へと進化する描写もポイントとして抑えたい点だろう。。

 有機的なロボットは「獣神ライガ―」などの前例は存在していたが、「エヴァンゲリオン」のヒットを経て増加していく(「MAZE爆熱時空」や「南海奇皇」など)「ヤマトタケル」は重苦しい作風と共に有機的な機体の描き方という点では「エヴァンゲリオン」の登場を予言したかのような立ち位置にあるのではないだろうか。




……余談だが、タケルの友人ロカは気弱で内向的な性格だが、偶然にも碇シンジ役の緒方恵美嬢が演じられたキャラクターだった。

メインスタッフ(敬称略)
・製作:本橋浩一 企画協力:東宝映画 総監督・シリーズ構成:井内秀治 監督:森田風太 脚本:井内秀治、藤本信行、他 絵コンテ・演出:井内秀治、山本裕介、斎藤博、他 キャラクターデザイン:岸田隆宏 メカデザイン:大畑晃一 音楽:手塚理、Vink プロデューサー:小竿俊一 製作プロデューサー:松土隆二 制作協力:ベガエンタテイメント 製作:日本アニメーション、ASATSU、TBS

メインキャスト(敬称略)
・ヤマトタケル:亀井芳子 ロカ:緒方恵美 オト・タチバナ:かないみか マ・ホロバ:茶風林 ミカヅチ:森川智之 キリオミ:喜田あゆみ アマツミ:石田彰 アモン:古田信幸 キリュウ:高木渉 クシナダ:折笠愛 オウカ:安西正弘 ハヤミカ:木藤聡子 ヤマトヨシオ:中田和宏 ヤマトカオル:佐々木るん カジナム:千田光男 カオン:矢島晶子 ツクヨミ、ナレーション:堀内賢雄

個人的な作品への評価……大体65点ぐらい。バトル面で地味な点も否めず、キャラクター、ストーリー面でやや粗もあり。ただ有機的なメカ描写や漂う重苦しさなど光る点もある作品だった。現時点で容易に視聴できる手段が存在しない事が惜しまれる。

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